ボランティア先には新入りの猫が2匹。生後5ヶ月の子猫兄弟たちだ。兄弟はもちろん、Must go together(一緒にもらわれなくてはいけない)のルールだ。しかもミルクのうちから世話していたフォスターマム(Foster mom/自宅で猫を一時預かりするボランティア)が、ひとしおこの兄弟たちに愛着があるようで、里親希望者があれば事前に話して自分がOKを出したいという。フォスターファミリーの家で、よっぽどかわいがられていたんだね。その人なつっこさと、物怖じしない様子をみればよく分かる。
私のシフト時間が始まるとすぐに、電話がかかってきた。午前中の人が休みだったので、今日は私が最初のボランティアなのだ。今朝店頭でみつけた子猫の兄弟はまだもらわれていないか、と聞く男性の声。もちろんまだいる。ここで遊んでいる。私のシフト時間が終わるまでには、奥さんを連れて必ず店に来るとのこと。この兄弟たちに一目ぼれしたのだ。かわいいものね。すぐにもらわれると思った。1匹150ドル、合計300ドルのアダプションフィーがかかること、カードは使えないことを説明すると、お金など全く問題ないと自信満々だ。数時間後再び電話があり、あと10分で着くからそれまで絶対に待っていてくれ」と念をおされる。と、ここまでは、順調至極だったのだが、その電話を切った直後に、60代と思われる白人女性が私の目の前に突然現れたのだった。
「昨日も見にきたの。この子猫兄弟をもらいたいの」
なんと。もう一人里親希望者が現れてしまった。ボランティアグループのルールは、first-come, first-served(早い者勝ち)が原則だ。そういう意味では、この女性のほうが確かに今ここにいる。しかし、しかし、う〜む。
とりあえず目の前の女性Cに状況を説明しがてら、話を聴く。先月愛猫を亡くしたばかりなのだそうだ。14歳まで生きて、晩年はずっと投薬が必要だったのだという。いかにも優しそうな愛らしい女性。ご主人と二人暮らしで、猫がいなくなり寂しくて仕方がないから、この店にいつも猫を見にきていてたのだ。そして兄弟たちにすっかり心を奪われたのだという。なんて良さそうな里親候補者だろう。さらに聞けば、サンディエゴでもお金持ちの多く住んでいる高級エリアの住人。完璧だ。さっきの電話さえなければ、今すぐにでも猫を渡したい。
しかし物事はそうは甘くない。見ると、50代中頃と思われる夫婦が足早にこっちに向かって、いかにも何かを期待するように目を輝かせてやってくるではないか。自前のキャリーケースまでしっかり持参してきている。あのー、間違いないとは思いますが、先ほどの電話の方で....?
その通り。「猫をもらいにきた」と確信を持って私に告げる旦那R。そしてR妻は、兄弟猫を見るなり声をあげた。
「あぁ、2週間前に死んでしまったルイーズにそっくりな柄だわ!夢みたい!」
これが問題の子猫たち。 →
こ、これは困った状況になってしまった。焦る私にも気づかず、興奮状態のR夫妻は、2週間前に亡くなったルイーズという猫がどんなにかわいかったか、毎日一緒のベッドで寝ていたので今どんなに寂しいか、兄弟猫を再び飼うことでどんなに慰めが得られることかと、とうとうと話しだす。
まずい。非常にますい。話しながらさりげなく情報を聞き出すと、ご夫婦そろって大学の教授。こちらも超高級エリアの一軒家にお住まいで、子供なし。家は広々。見るからにお金持ちそうな身なりをしている。しかも品がよく、優しそうだし、R妻にいたっては仕事を切り上げて、私のシフト時間に間に合うように飛んできたのだという。なんと理想的過ぎる里親候補者たち。できれば1匹ずつわけてあげたいくらいだ。困ったなぁ。
仕方なくR夫妻に、あちらの女性Cも兄弟たちを欲しがっていることを告げる。Cのほうが早く来た。しかしR夫婦のほうが先に連絡をくれていた。私にはどうしたらいいのか決められないので、みんなで話し合いましょうと打ち明けた。そこで、3者で長い長い話し合いがもたれたのだった。
猫をはさんで約30分。2組ともたいへん穏やかな上品な人たちなので、決して誰も我を張ったり、声を荒げたりはしないのが幸いだ。2組とも状況はそっくりだし、まさに甲乙つけがたい。それはすぐに互いの知るところとなり、出るのはため息と苦笑いばかり。しかし、どちらも決して譲らないのがまたアメリカ人らしい。
そこで私は1つ提案してみた。2組とも申込書をとりあえず書いてもらって、それぞれフォスターマムと後日電話で話して彼女に決定してもらうというのはどうだろう。ボスに電話で相談すると、それがいいだろうと同意してくれた。
しかし、CもRもそれでは嫌だというのだ。決めるなら、今すぐここで決めてくれ。そのほうがフェアだと。お前が今この場でジャッジじろという。そ、そんな無茶な〜。
さて突然ですが、ここで問題です。
結論からいうと、この後どちらか片方に決まりましたが、いったいどういう方法で決まったでしょうか。正解は<続きを読む>にあります。クリック前に想像してみてくださいまし。
幸せいっぱいの里親。 →