猫にきびができてしまったソフィー。あれから病院でいわれた通り、一日数回コットンにぬるま湯を付けてふき、一日2回塗り薬をつけていたが、一向によくならない。それはなぜか理由は明らか。そう、自分で舐めとり、さらに引っ掻いてしまうからなのだ。
特に塗り薬が嫌なようで、塗られたあとは、すぐさま舌をつかってできる限り舐めとってしまう。驚いたことに猫の舌というものは、思いのほか長くて、器用にほとんど下あご中を舐めることができるのだ。しかし感心してばかりもいられない、これは抗生物質が入っているし、必要もないのに体に入れてしまってはいいはずがない。だめだめ。
そしてもう一つ、決定的にだめなのが、引っ掻くこと。薬を取ろうとするせいか、治りかけで痒いのか、激しく後ろ足で顎の下を掻くようになってしまった。毎回コットンで拭くたびに、新しい血がついている。爪も思い切って短くし、さらに爪やすりで丸めてみたが、思いっきり掻いてしまってはいずれも効果なし。しかし掻かないよう、24時間見張っているわけにもいかない。もう残された手は一つ。
エリザベスカラーをするしかないのだった。
英語では、Elizabethan collar。いかにも発音が通じなさそうだったので、ペット用品屋へ行く前に、「えりざべっさん・からー、えりざべっさん・からー」と何度も練習して行く。しかし店に着いてみたら、ただ単に E-collar と省略系の簡単な名前がついていたのだった。アメリカ人にも長すぎるからか?もっととても悲惨なゴツイのを想像していたが、柔らかい透明なプラスチックで黒い縁取りの、案外シンプルないい感じのがあったので、さっそく購入。値段は約10ドル。
そういえば、ソフィーはうちにくる前にすでに避妊手術済みだったし、ノアの去勢手術のときには、エリザベスカラーは使わなかった。私はもちろん、うちの猫たちにとっても初のエリザベス体験。果たしてソフィーの反応やいかに。
絶望するソフィー。 →
まったく反応しない。あまりのショックに、もうすっかり動けなくなってしまったソフィー。ソファーに置いたら、そのまま、ただただじっとしている。毛布に乗せればそこから一歩も動かない。目を見開き、浅く早い呼吸を繰り返している。な、なにもそんなにショックを受けなくても。
半日すると少し行動するようになったが、カラーが机の角などにぶつかって止まってしまうと、そのままその場所でいつまでもいつまでもいつまでもじーーーーーーっと助けを待っているのだった。エリザベスカラーを付けると、みんなこんなになってしまうものだろうか。ネットで調べると、案外平気そうにしている猫たちの写真がたくさん載っているではないか。それなのに、なぜソフィーだけこんなに動けなくなってしまう?!
その後24時間様子をみてみたが、飲まず食わずトイレもいかず、ほとんど眠りもしない。傷口はよくなってきたようだが、その代わり、気のせいか目も精気がなくなり、どんどん弱まっているかのように見える。哀れな小さなソフィーは、部屋の隅で行き止まりにぶつかったまま、絶望のふちに落ち込んでしまい、みるかげもない。なぜ自分に、こんなにいわれなき不当な災難が降りかかってしまったのだろうかと訴える小さな猫背が痛々しい。
悩んだ結果...。カラーをはずすことにした。もともと、ただのにきびだし、清潔にすればすぐに治ると獣医も言っていた。それなのに、このままでは別の病気になってしまいそうだ。何より、いかにも哀れな様子のソフィーを、これ以上見ているのが耐えられなくなってしまったのだった。
すると、どうだろう。一瞬にして絶望から歓喜が訪れたソフィーは、ゴロゴロ喉を鳴らし、もりもり餌を食べ、ごくごく水を飲み、ばりばり草を食べ、ネズミのおもちゃではげしく遊び、ノアを追いまわし、トイレもしっかり済ませるではないか。元気じゃん!だ、だまされたか。
とにかくこのままでは元の木阿弥なので、方針を変えることにした。塗り薬はとりあえずやめて、一日何度も、顎の下をぬるま湯でよくゆすぐことにした。洗ったほうが、コットンで拭くだけよりも、きれいになるになるに決まってる。お湯で洗われるのは、それほど嫌がらない。むしろ気持ちよさそうに目をつむったりしている。まだ3日しかたっていないが、随分よくなったようだ。最初からこうすればよかった。
ソフィーさんよ、きみにとっては悪夢のような24時間だっただろうが、私はきみをイジメていたわけではないのだよ。今度こそ一緒に治療がんばって、早く良くなろうね。