相性の悪い貝
冷凍のムール貝を買った。中国スーパーで安売りだったのだ。ムール貝のほか、エビ、イカなどを入れて、ブイヤベースを作ってみた。トマト味の熱いスープは寒い日にぴったり。濃厚な魚介の出汁がきいたこのスープ、そうだ。残りはご飯を入れて、明日の朝、リゾットにして食べよう!などと思ったのがそもそもの間違いだったのだ...。
ムール貝には嫌な思い出がある。今でも覚えている、数年前のこと。仕事中出先で入ったフランス料理屋(横浜。店の場所も覚えている)。ランチはムール貝のリゾットだった。熱々でおいしかったなーと幸せ気分で電車に乗った。午後から他社で会議がある。会議室に直行して、数分後、突如吐き気が襲ってきた。会議中唐突に席を立ち、トイレに駆け込む私。もうほとんど口までこみ上げている。間一髪の差で間に合って、何とかトイレにたどりつくと、そこで、ぶぅぉぉぉぉぉぉ~っと恐ろしい音をたてて、胃の中のものを全部一気に吐いてしまったのだった(汚い話ですみません)。それはもう突如襲ってきた発作のようなもので、止めることなど出来やしない。その会社のトイレをかなり広範囲に汚してしまったが、40人近くいた会議室の中でばらまかなくて良かったと心からほっとしたのだった。
未だかつてそんな勢いで吐いたことなどない。どう考えても怪しいのはムール貝。こういう場合、その店を訴えるべきなのかと迷ったが、確証もないし、一緒に同じ物を食べた上司は何事もなかったという。そしてその後特に問題もなかったのでそのままにしてしまった。しかしムール貝はそれ以来一度も食べたことはない。添えられていても除けて食べないようにしていたのだった。
そんなムール貝だが、今回安さに負けてつい買ってしまった。ブイヤベースの残りは翌朝、ご飯を入れて卵を落とし、リゾット風にしてみた。貝類は食べにくいので殻を取って中身だけにする。熱々リゾットを食べ初めて数分後、うっ!ムール貝の殻の破片が喉に突き刺さる。だが気が付いたときにはもう飲み込んでしまった。急いでトイレに駆け込み吐こうと試みるが(再び汚くてすみません)、どうしても吐けない。刃物が突き刺さったように喉が痛い。このまま死ぬかも...。テーブルに戻り、泣きべそかきながら弱気にJに訴える。驚きつつも、貝殻はカルシウムだから胃酸で溶ける、そのまま飲み込むよう冷静に指示をするJ。そうか。それなら飲んでしまおう。こういうときは、ご飯を丸呑みすると良いと聞く。しかし、リゾットの残りを食べる気はしない。ご飯はない。水を飲んでも、お湯を飲んでもだめ。そうだ。ぶどうならある。
アメリカの種無しぶどうは大きい。4センチほどもある。なかなか丸呑みできるものではないのだ。それでも柔らかくて具合は良さそうだ。かなり無理してなんとか飲み込むと、おぉ!貝も一緒に落ちていく感触が!しかし、ムール貝の薄い鋭い破片で、食道が焼けるように痛い。巨大ぶどうを10粒も飲んだ頃、ようやく貝は胃にたどり着いたのだった。あぁよかった。痛かった。ほんとに死ぬかと思ったよ~。
そう、この冷凍ムール貝。買った時から、割れていた貝が1~2個入っていたのだった。破片はとったつもりだったのに、貝にくっついていたのだろう。安売りの貝だったからいけなかったのか。それともこの貝に何かたたられているのだろうか。どっちにしろ相性が悪いこと間違いない。もう当分食べるのは止めようと、固く心に誓ったのだった。そしてあの破片。ちゃんと全部胃の中で溶けてくれただろうか。